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保湿剤(ヒルドイド)の処方規制は見送られました

さて、年が明けると診療報酬改定の話がいろいろ聞こえてきますが、つい先日ヒルドイドなどの保湿剤の処方規制が見送りになったとのニュースを見ました。

なぜ、このような話が出てきたのか検証します。

保険診療における保湿剤の処方

保湿剤の処方は、専門分野からいって皮膚科での処方が多いと推測されますけど、正直、ほかの科、特に内科や小児科でもそれなりに処方されていると思われます。アトピー性皮膚炎、皮脂欠乏性皮膚炎を始め、皮膚科治療において、保湿剤はなくてはないもの、という位置づけになっています。

統計から出てきた問題点

健康保険組合連合会の調べでは、年間約1230億円の保湿剤が処方されているとのことで、そのうち17%は保湿剤のみの処方だったということです。また、124健保組合のレセプトデーターを分析した結果、

  • 保湿剤のみの処方額は男性が11億円女性が17億円とかなりの開きがあった
  • 特に24~54歳に限っていえば、男性は1.2億円、女性は5.9億円と5倍近くの開きがある。
  • しかも2014年から2015年にかけて調べてみると、急激に女性の保湿剤単剤の処方件数が増えていたというデーターがある。

ということらしいです。確かにここ数年で急に処方量が増えたのは不自然で、目をつけるのもわからなくはありません。

どうして増えたか?

これは、SNSやブログなどで、玉石混淆の情報が発信されるようになった影響なのですが、ヒルドイド(ヘパリン類似物質軟膏)について、「美容にいい」「保険で処方できる安価な美容クリーム」という情報が一時期多く発信され、それを真に受けた女性が処方を希望して、皮膚科等に受診したという事情があります。このような患者さんは、ヒルドイドを処方される以外の目的がないので、医師の方も咎めずに処方すれば、診察も短時間で終わる「お得意様」になってもらえるということで、肯定的に捉えている先生もいたかもしれませんね。ちなみに、自分の医院では、使い方を咎めたところ、診察に多くの時間を要した上に、評価の低い口コミを書かれてしまい、困惑したことがあります。

 

本当にお肌にいいの?

ヒルドイドの確認された薬理作用は血液凝固抑制作用、血流量増加作用、血腫消退促進作用、角質水分保持増強作用、線維芽細胞増殖抑制作用ということで、保湿効果以外にも効用が認められています。

  • 血栓性静脈炎(痔核を含む)
  • 血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)
  • 凍瘡
  • 肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防
  • 進行性指掌角皮症
  • 皮脂欠乏症
  • 外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫脹・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎
  • 筋性斜頸(乳児期)

美容的には保湿効果と血流促進効果があるので、肌が保湿された状態になって、血色もよくなる可能性がありますが、それは市販の保湿剤を使用しても、それほどの違いはないように思います。そもそも、高額な化粧品に含まれている成分も、医学的にはそれほど強い効果が証明されていなかったり、裏付け自体ないものが多く、お値段ほどの効果の高さが期待できるものでもないと思いますので、それに比べると、処方でヒルドイドをもらうのはコストパフォーマンスはいいかもしれません。

処方規制の意味するところ

結局見送りになりましたが、処方規制を言い出した背景に、一部の不届きな患者さんや医師による不適切(保険診療の決まり事の観点で)な処方があるのは間違いなく、いわば威嚇の意味があったのではないでしょうか。

実際に皮膚科診療から保湿剤を急に取り上げることは困難ですし、そもそも、前述の「不適切に使われた可能性のある保湿剤」の額は年間でも100億円には届かない気がします。それを言うなら、例えば、無駄に破棄された抗がん剤の1年の総額は700億円以上という話もありますし、医療費の削減に役に立つ対策はほかにいくらでもありそうですね。

こういうことが続くなら、本当に規制するよ!というお話だったのでしょう。