医者向けのちょっといい情報

開業医が医者向けのちょっといい情報や医療ニュースについて語ります

医師偏在に対しての政府方針

昨日、愚痴をたくさん書いてしまいましたが、今日もなんとなくその手のニュースで気になるものがありましたので…。

 

医師偏在問題の背景

医局制度の崩壊

過去のシステムでは、医学生がめでたく医師国家試験に合格して、医師になると、まず入る大学の医局を決めて、そこに籍をおく、ということから始まり、研修医であっても指導医であっても、半ば強制的に関連病院に派遣され、勤務するという形でした。特に地方の基幹病院は、このやり方で、体制を維持しているという事情がありました。

ただ、大学の医局が人事権を握っていて、条件の悪い病院には人が来ない、という状況が疎ましく思われたり、ゼネラリストを育成したいという思惑もあって、厚労省が2004年から初期研修を義務化し、ある程度の規模の市中病院でも初期研修ができるという制度にしました。マッチングという作業がありますが、基本的には「卒後1年目から好きな病院に就職できる」という制度になりました。その結果、大学の医局に人事権はなくなり、医師は行きたいところに行くようになった結果、地方の基幹病院や大学病院の過疎化が加速し、医局制度は実質崩壊しつつあります。

 

医師の都会志向

別に医師に限らないですが、基本的には、経済的余裕があれば都市部に住みたいという人が多いと思いますが、それについては、

www.savingdoctor.com

こちらの記事で書きました。いま、自分で読んでみてもちょっと不満タラタラな感じの文章ですねえ(苦笑)

医師の出身地

全国47都道府県に医学部は一応ありますけど、医学部の場合、他都道府県から結構入学者が来ます。実際自分の大学も地元の出身は3割くらいで、ほかは首都圏や隣接都道府県の出身者でしたから、卒業したら地元に戻るんだろうなあ、とは思っていました。

大分前の内容ですが、一応調べた先生がいたようで、医師会雑誌の投稿をみてみると、

医学部医学科の所在地と入学者の出身地について 江原 朗

「関東、近畿の学生が、他都道府県の医学部に入学して、卒後地元に戻る」という傾向がはっきりしているのが分かります。

今回冒頭で取り上げた記事でも、「大学医学部の入学者のうち地元出身者が卒業後も、その都道府県に定着する割合は約8割 」と記されており、医師は元々、都市部の出身者が多いことが分かります。

 

医療法と医師法の改正案

今回、政府の考えている内容とは

  • 一定期間以上、地方で勤務した医師に、認定を与える。
  • 病院の管理者などを選出する場合の基準として反映させる。
  • 都道府県の権限で「医師多数地域」から「医師少数地域」への配置を促す。

というものらしいですけど、実効性はどうなんでしょうか。この認定制度をインセンティブと称していますが、一般的にはインセンティブは「出来高制」「報奨」など、金銭的なものが連想されますし、実際、医師求人でインセンティブと書いてあったら、出来高による給料アップのことと捉えるものでしょう。「あなたは地方で勤務して偉かったね、院長になる資格がありますよ」というのでは、このご時世ではインセンティブとなり得ないと思います。そんな認定はいらないから好きにやらせてもらう、という人の方が多いでしょう。

以前から、専門医に対して、診療報酬をアップするという話が出ていましたが、全く実現していません。ある程度、実利を示してもらわないと、医師といえども動かない時代になってきていると思います。

地域偏在以外にも偏在がある

冒頭の記事でも書かれていますが、地域性以外にも偏在があります。それは診療科についてです。最近の傾向として、訴訟や仕事量の多いメジャー科(内科、外科、産婦人科、小児科)を避け、マイナー科を選ぶ医師が増えてきたというものがあります。この問題を、ただ需給の面やプライドをくすぐるような議論のみで論じても解決は難しいでしょう。一つ提示したいのは、

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厚労省HP:http://plaza.umin.ac.jp/~ehara/my_paper/nichii2013_12.pdf より抜粋

2014年のデータなので、現在ではさらに偏在が進んでいると思いますが、女性医師が全体の19.6%である事を元に考えると、内科、外科、救急科の女性医師は少なく、小児科、麻酔科、眼科、皮膚科の割合が非常に多いのが分かります。もちろん、男性でもマイナー科を選ぶ医師が増えてきていると思いますが、データを見る限り、女性医師の増加と診療科の偏在は切り離せない問題であることが分かります。

こういう話をすると、すぐにフェミニズムを前面に出して議論をふっかける人がいますが、少なくとも、私は非難したり、女性医師にどうこうしてもらおうとは思っていません。出産や子育てなど、女性でなければという人生のイベントもありますし、小児科や婦人科では、むしろ女性の活躍の場が広がってきていると感じていますので、うまく共存しないといけないと思います。

 

職業選択の自由

憲法の22条

  1. 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
  2. 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

とうたわれています。医師についても当然これは当てはまりますので、いくら認定がどうのこうのといっても、公共の福祉に反しない限り、医師が何科の業務をやろうと、どこで仕事をしようと自由ですので、偏在を解消するには、どうしても医師が自分の意思で、なり手の少ない分野に出て行く必要があります。それには、相応のメリットが提示されないといけないはずですが、今の行政のやり方は、どんどん道を狭めて追い込んでいき、否が応でも言うことを聞かせるような方向性になっていると思います。こういう形で無理矢理望まない業務に就かないといけないのであれば、昔の医局制の方が数倍ましだったのではないでしょうか。

まとめ

専門医制度改革(改悪?)でも、現場の医師からは大きな反発を受け、予定通りの話になっていないところへ、かなりの反発を受けそうな方針が打ち出されました。都道府県の権限を強化する、というのもどこまでできる話なのか分かりませんが、特定地域での開業をできなくするとか、医師の少ない病院に、多い地域の病院から医師を派遣するようなことは、今まで、医師会や医局がやってきたことと何ら変わりがなく、あまり実効性があるとは思えません。どっちにしても、今後の医療界はお先真っ暗な感じがしてきました…。